よってたかって恋ですか?


    終 章



自分の持ち物のせいで災禍に遭う人が出るなんて、
それこそあってはならぬ一大事。
事情を知らないお嬢さんたちの
あくまでも無邪気な好奇心からであれ、
神の子の持ち物が罰を与えるなんてな事態、
絶対に発動してはならぬという
そこでの底力が発揮されたということか。
茨の冠を手にしていたお嬢さんたちごとという大技で、
手元近くへ引き寄せたイエス様。
人ならぬ身だからこそ放ってしまった
小さな奇跡の余韻の滲む中、
そおっと その場から離れたお二人で。
イエス自身も意識して構えたものではなかったらしく、
だからこそというのは些か乱暴だが、
辻褄の合わなさごと何とはなく場も収まったそれであり。

 「キミって頼もしいな。」
 「え?」

そこはやっぱり一安心して多少なりとも脱力もしたせいか、
帰りは自転車を押しながら、
やや無言のままにアパートまでの道を辿って。
2階の自分たちのフラットに のそのそと上がり込み、
半ば習慣だからという流れ、手を洗ってから六畳間へ進み、
コタツへ入って……幾合か。
先に口を開いたのはイエスの方であり。
沈んだお顔のままながら 先に我に返っていたそのまま、
何かしら思うところを咬みしめていたものか、
そんなお言いようを零される。
とはいえ、

 「? イエス?」

結果として場を収めたのは
イエスが発揮した“聖なる覇気”の発動だったわけで。
だっていうのに何を言い出したのかと、
言葉の足りないところ、こたびばかりは読み取れなくて。
ブッダがえ?と小首を傾げて見せれば、

 「だって、私は
  私たちだけでは手に余る困りごとというと
  すぐにも梵天さんへSOSを出したのに。」

それが何を指しているのかは、ブッダにもあっさり通じた。
流星を観にと夜更けに出掛けた翌日の朝、
マーラの悪戯のせいで
ブッダがいきなり幼少期の姿へ転変していた騒ぎのことだろう。
ご当人がちょっぴり渋ったのを説き伏せ、
頼もしい天部へほぼ速攻で連絡したイエスだったが、

 「キミは、
  まずはどんな危ないことなのかを洞察してくれたその上で、
  自分で何とか出来ないものかって、
  あれこれ考えたり動き出したりしてくれて。」

そんな違いを思い知らされ、
遺漏なく行き届いていたあれやこれやへ
やっぱり凄いなぁと あらためて恐れ入ったイエスだったらしく。
薄いが広い肩をすぼめ、
しょぼぼんと猫背になってしまったものだから、

 「いや、あれと今回のとでは、
  困りごとの種類が違い過ぎるでしょう。」

今回のは失せもの探しみたいなもので、
それに比べて、前の騒ぎは
マーラという天界の存在の意図がらみだった代物。
言わば 尋常ではない一大事だったのだから、
イエスの取った対処に間違いはなく。

 “むしろ、私が強情張ってたままだったなら…。”

そんなブッダの矜持を慮り、いちいち気遣いをしいていたら、
イエスが案じたように、
一層悪いほうへと進展していたかも知れなくて。
あれほどまでの光の覇気を持ちながら、なのに素直で天真爛漫で。
ああもう大雑把なんだからとか、
東洋の機微はそんな大味じゃあなくて…なんて
慌てさせられるシーンも無いではないけれど。

 彼自身の心持ちは それは繊細でやさしくて

順を踏んでくれないととか、
そこは察してよ…なんて 心のうちで思ったあれこれへ、
ついつい勢いが止まらず 見落とすことも多かれど。
ごめんね、気が回らなくてなんて、
こんな風に しょんもりと
肩を落として反省しちゃうところを見せてもらえるなんて、

 “そうだよね。これは私だけへのことだものね。//////”

叱られるからとか、嫌われるからとか、
子供が大人へ恭順して見せる“ごめんなさい”じゃあなくて。
守ってあげたいといつも思っているあなただというのにネ
だのに、結果として自分は至らなくって…。
ブッダが傷ついたんじゃなかろうか困ったんじゃなかろうか、
それを恐れ、気遣っての“ごめんなさい”なだけに。

 “あああ、どうしよう。//////////”

くせのある長い髪、肩口に覆いかぶせつつ、
俯いてしまうイエスのお顔の陰りようが、こちらの胸には切なくて。
そんなそんな萎縮なんてしないでと思う心は、
間違いなく真摯なそれなれど。
それと並行して、
特別扱いなんだと気がついたそのまま
嬉しくて嬉しくてたまらない想いも波打つものだから、
何とか押さえ込むのが大変で。
そんな如来様だとは欠片も気づかぬままのヨシュア様、

 「私の不注意から振り回してしまったんだものね。
  ブッダには何かと大変な側杖ばかりを こうむらせていて。」

本当にごめんねと淡々と紡いでいた彼だったが、
ふと、

 「そういや、あのその、/////////」

一体 何を思いついたやら。
そこまでは落ち込んでいるがための寂寥を滲ませた表情だったのが、
お髭の陰になってしまうほど、口許をうにむにと咬みしめて見せ。
愛しいお人のお顔だもの、そんな変化にはすぐにも気がついて

 「? どうしたの?」

まだ何か、自分の落ち度を見つけちゃったと恥じ入ってしまったのかなと。
微妙にふんわかしていた心持ちも急いで引っ込め、
形のいい眉を寄せながら、含羞む神の子を案じるブッダだったのへ。

 「えとえと、あのね?/////////」

ちょっぴり上目遣いになったイエスが おずおずと口にしたのは、

  晩も我慢ばっかりさせてるような…。
  ……っ。//////

そう、夜更けての情愛の交歓へも
睦み合いの場でありながら、
ブッダにばかりいろいろ我慢させてないかなと。
選りにも選って、こんな間合いで想いが及んだイエスだったらしく。

 高まりゆく悦の波にその身をこわばらせ、
 口許を食いしばり、しなやかな背条を反り返らせて。
 絶頂の嵐が通り過ぎるのを待つキミは、
 ただただ さいなみに耐えるばかりで、辛いんじゃないかと…。

 「あのねぇ。///////」

もしょもしょした言いようながらも切々と紡がれた文言へ。
何を言っているのと反駁しつつ、
耳や頬のみならずという勢いで、
熟れたように 顔中が真っ赤っ赤になったブッダだったのは。
照れる場面が引き合いに出されたからってだけじゃあなく、
思い違いもはなはだしいと、ちょっとばかり憤慨しもしたからで。

 “そりゃあまあ、大変には違いないけれど。/////////”

言われたその通り、
抱擁のたび ぐいぐいと追い上げられてしまうのは事実だし、
取り乱しそうになるのを懸命に堪えているほどで。
でもね・あのね、一方的な行為では、
選りにも選って男同士で あのその…そうそう盛り上がるとも思えない。
それが“睦み”であるからこそ、気持ちだって高揚するのだし、
キスにしても愛咬にしても、
愛しいと思われているのだと実感すればこそ
くすぐったいと感じたそこへ、更なる甘酸っぱい反応も出るのではなかろうか。
まさかにそれをそのまま言うのは気が引けて、

 「好き勝手なことをされてるワケじゃないんだし。/////////」

ああ こんな甘い声を聞かれて恥ずかしいとか、
こんなことへ ひくりと震えるところなんて見つめないでとか、
向かい合うのが抱き合っているのが 特別な相手だからこそ思うのであって。
触れ合っている肌の主が、こちらのそんな含羞みを
愛おしむように、それでいて可愛いなぁと嬉しそうに、
やはり含羞みつつ、とろけそうな眼差しで見入ってくれるのへ。
こちらも ああ慈しまれているんだと嬉しくなって、
そこからどんどんと感じやすくなってゆくのだろうし。

 「大変だなんて、そんな…。//////////」

ああでも、どう言えばいいのかなぁ、と。
そこはやっぱり、いきなり柔軟な人へと変われるものでもなく。
思ったあれこれ、律義に伝えようとしかかって、でも、
含羞みやら慎みやらが先に立ち、口ごもってしまわれるのも無理はない。
ずんと長いこと、堅物なほど貞淑であった人ゆえに、
難しい教えを柔らかく説くことは出来ても、
恋愛にまつわる甘くて柔らかい話には、縁がないので初心者同然。
愛されていればこそだもの…だなんて 小っ恥ずかしい言いよう、
口にしようとするだけで顔が赤くなってしまって、
何かを伝えるどころじゃなくなる。

 「…ブッダ。」

とはいえ、そこはそれこそイエスの方が心得ていて。
恋愛経験はとっつかっつだが、
ブッダの人柄をようよう判っているし、
困らせるつもりはないのでと、
真っ赤になったのへ“ああ しまった”と察しをつけるのも素早くて。
四角いコタツの、角を挟んでのお隣同士という座りよう、
それでも もどかしいと思うたか。
ひざを布団の裾から出すと、
もっとブッダの近くへと、座ったままでにじり寄るイエスであり。

 あのね? 大変じゃあないの?
 えと…………うん。////////

お膝の上で 時々握り込んでいたブッダの白い手を掬い上げ、
そちらからも両手がかりで繋いでくれると。
それだけ至近であればこそで、
見つかったばかりの冠に当たらないよう
おでことおでこをこつんと当てて、

 「もしかして、私、だから?」

ちょっぴりゆっくりな訊き方になったのは、
こんなこと訊くなんてという彼なりの含羞みと、
お門違いだったらという恐れが少しは滲んだせいかも知れぬ。
ああ、だったなら、
恥ずかしいのは同じなんだねと実感し、
口元がわななきそうになるのを堪えつつ、
えいと覚悟した如来様。

  「…………うん。//////」

含羞みながら頷いたのを見届けると、

 「だったらいい。//////////」

 それで察してくれたのへ
 ほわりと微笑ってくれたのへ

わぁあと こっちもますますと真っ赤になる。
そんな釈迦牟尼様の頬へ大振りな手のひらがそおと触れ、
お顔とお顔がゆっくり近づき、後はナイショの優しい時間。
昼間ひなかから どういう話を結構真剣に紡ぎ合っていたのやら、
そこもまた真理・思考の探求者とその理解者であるからか。
ちょっと間が経ってから その点へ気がついて,
茹でたよになって“キャ〜〜〜ッ//////////”と
地団駄踏んで照れてしまわれないのかなぁvv(笑)





  お題 10 『これが僕の幸せです』



   〜Fine〜    14.09.28.〜12.08.

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 *書き始めの日付がもう恥ずかしい。
  やっぱり半分に分けるべきでしたね。
  最聖ならではな それぞれの奇跡つながりとなりそうだったので、
  一緒にしちゃえと思ったのですが、
  肝心な書く時間が取れなくて。
  暇な頃合いと言われたのに忙しかったのが想定外でした。
  おじさんの嘘つき〜っ!(私憤)笑

 *もしかしておまけのおまけを書くかもですが、
  それよりクリスマスも近いことですんで、
  予定は未定です悪しからず。

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